【ドイツ映画】顔のないヒトラーたち。備忘録と感想。

2021年に決めたわたしの課題、これから観たドイツ映画の感想をちまちま記録していこうと思う。

早速だが、記念すべき第1本目は2014年公開「顔のないヒトラーたち」。この作品が観られる動画配信サービスは以下の通り。(※2021年2月21日時点の情報)

 


画像掲載元:顔のないヒトラーたち – 作品 – Yahoo!映画

この画像は映画のパッケージなのだが、上にさり気な~く(さり気ある)レイヤー加工処理されているかの有名な国旗のおかげで、この作品がなにを題材としているかが大体分かってしまう。

作品の原題は、ドイツ語で「Im Labyrinth des Schweigens(イム・ラビュリント・デス・シュヴァイゲンス)」……邦訳すると「沈黙の迷宮」。

1950年代の後半、戦時中にドイツの親衛隊が収容所で何を行ってきたか…その真実を追求するするために”沈黙の迷宮”へ切り込み、ホロコーストに関わった元親衛隊らを裁く正義感溢れる若き検事のお話。フィクションも交えつつ、実話に基づいて作られている。アカデミー賞外国語映画賞ドイツ代表作。

裁判の舞台はドイツのフランクフルト・アム・マイン。裁判は1963年から20か月に渡って行われ、19名中17名に有罪判決が下された。この裁判は「アウシュビッツ裁判」と呼ばれ、ドイツの歴史認識を大きく変えるきっかけとなった。

 

ちょうど同じ頃に、ユダヤ人の収容所移送責任者であったアドルフ・アイヒマンが捕らえられイェルサレムへ移送、通称「アイヒマン裁判」が開始される。このアイヒマン裁判はドイツ史や心理学を学ぶうえでとても重要で、かなり有名。

アイヒマン裁判を題材として取り上げている映画も多い印象。わたしがホロコースト関係の作品で初めて鑑賞した作品は、まさにこのアイヒマン裁判を題材とした「ハンナ・アーレント」だった。

戦争直後に行われたニュルンベルク裁判では明らかにされなかったホロコーストの実態が、20年弱の時を経てようやく明るみに出され、それまでに人々が学んできた歴史が塗り替えられた。

わたしたちは、戦時中に親衛隊…及びナチス組織全体が行ってきた過ちを知り、もう二度とこんな惨いことを起こさぬようにするためにはどうすればいいのか考えなければならない。そのための礎石を築いた、重要な裁判であったことには違いない。

 

スポンサーリンク

 

わたしの感想として、まずはタイトルの「顔のないヒトラー」に関して。

原題「沈黙の迷宮」から受ける印象と全然違う。ドイツ作品に関わらず他の洋画作品のタイトルに関してもよく感じるのだが、この原題と邦題の”ズレ”というか、邦題の”野暮ったさ”はいかがなものか。原題をそのまま直訳したタイトルでいいのに。

 

この作品及び実際に裁判が行われた舞台は、ドイツのフランクフルト・アム・マイン。ヘッセン州の首都で、”アム・マイン(Am Main)”という名前の通りマイン川沿いに位置している。


画像掲載元:Römer | Stadt Frankfurt am Main

主人公の検事ヨハン・ラドマンらが勤める裁判所には、なんとなんとフランクフルトの超有名観光スポットであるレーマー広場旧市庁舎が使われていた。

この建物は15世紀より市庁舎として利用されており、第二次世界大戦中に破壊されたが復元されて現在に至る。特徴的な階段型屋根と、左右対称で均整のとれた佇まいが美しい。

 

作品鑑賞中に初めて知ったこと。元親衛隊員は、教職に就けないということ。言われてみれば当然なんだけど。上官からの命令で、または命令がなくとも収容されている人々にひどいことをしてきた元親衛隊員が子供に教育を施すなんて考えたくないね。

そのように戦後も過去の経歴を隠して普通に生活している元親衛隊をドイツ国内で裁くため、ヨハンは途方に暮れそうなほど大量の住民記録を片っ端から調べ、アウシュビッツに収容されていた人々を見つけ出す。

そして彼らをフランクフルトへ呼び、証言をとる。収容所で見たもの、聞いたこと、親衛隊から何をされたのか…。

 


画像掲載元:Im Labyrinth Des Schweigens -Trailer, reviews & meer – Pathé (pathe.nl)

捜査に意欲的に取り組むヨハンに対し、職場同僚が放った一言がとても印象的で考えさせられた。

彼ら(親衛隊)は兵士の義務を果たしただけでは?

戦時下では、ナチス親衛隊に限らずすべての兵士は上官の命令に従って動く。アウシュビッツで駐在任務に就いた親衛隊たちも、最前線で武器を手に戦うわけではないにしろ、上官の命令でそこに派遣され、日々の任務に就いていたわけだ。

そして非常に興味深いことが一点。上のセリフは日本語字幕からそっくりそのまま引用したのだが、「兵士の義務」の部分のドイツ語オリジナル音声は、「Pflicht(義務)」ではなく「Aufgabe(課題)」と言っていたのだ。「兵士の義務」よりも「兵士の課題」という表現の方がしっくりくる…。

ここで思い出されるのが、このアウシュビッツ裁判と時を同じくして行われたアイヒマン裁判の被告人である、アドルフ・アイヒマンだ。アイヒマン裁判の映像はいくつかの映画作品にも使われており、わたしはそれを観たことがある。法廷で、アイヒマンも同じようなことを主張していた。「私はただ命令に従ったまで」と。

 

スポンサーリンク

 

この作品内で最もショッキングだったのは、戦時中、家族全員でアウシュビッツに収容されていたシモンが、彼の娘について告白する場面だ。

シモンには双子の娘がおり、彼女らは医者に連れていかれ様々な残酷極まりない実験を施されたのちに死んでしまった。チフス菌や結核菌、ジフテリア菌を注射され、麻酔もなしでメスで内臓を取り出され、頭には針を何本も刺され、最後に双子の背中同士を縫い付けられたという。なんと惨い。耳を疑うような内容だ。

わたしはまだホロコーストについて勉強中の段階なのだが、収容された人々の中から選別されて医療実験に使われた人たちがいたことは知っていた。

双子。。。実験にあたって双子を選ぶ理由は分かりたくなくても分かってしまう。限りなく近い遺伝子を持った者同士で対称実験を行うということだ。最悪だ。本当に最悪だ。

ここで出てくる医者というのが、これもまた有名な元親衛隊員の医者ヨーゼフ・メンゲレである。アイヒマンと同じく彼の行方もずっと捜査されていたがとうとう見つからず、1979年ブラジルで死んだ。

 

物語が進む中でヨハンは自暴自棄になり一旦現場を離れるのだが、その時にアウシュビッツの跡地を訪れたことがきっかけとなり、決意を新たに捜査に復帰する。

アウシュビッツ収容所の跡地は今や芝に覆われただけの「原っぱ」で、まさか、たった数十年前の戦時中にあんな惨たらしいことが行われていたとは思わない。

こうやって何事もなかったかのように過去は風化していってしまうのか。誰かが真実を突き止め、その真実を後世に後世に語り継いでいかねばならない。過ちは決して風化させてはいけない。

ヨハンと同僚の努力の末、彼らはついに1963年から20か月にもわたる裁判に挑むこととなる。その裁判の様子は作品では観られなかった。ヨハンらが法廷の中に入り、扉が閉まるところでエンドロール。

 

主人公ヨハンは架空の人物であるが、フランクフルトで行われた通称:アウシュビッツ裁判は史実である。戦後1960年頃までは、ホロコーストの真実は人々に隠されてきた。

この作品では、戦後から人々に隠されてきた真実のドイツ史を塗り替える起点となった、重要なアウシュビッツ裁判が起こるまでの過程を知ることができる。わたし自身、鑑賞して学ぶことが多くあった。

ドイツの外側からでなく、ドイツの内側視点からナチスを、ホロコーストを観察する作品もとても学びになる。鑑賞してよかった。ドイツ史に興味がある人には是非観てもらいたい作品。

 

 

つたない感想を最後までお読みいただきありがとうございました。

 

顔のないヒトラーたち」はU-NEXTで観られます。

見逃し配信バナー

 

宜しければ以下の記事もご覧ください。

ドイツ映画を字幕付きで観るならユーネクストが1番【U-NEXT】
せっかくドイツで暮らしているので、この機会にできるだけ多くのドイツ映画を鑑賞したいとい思っているわたしなのですが。これまでにいくつかのVOD(ビデオオンデマンド)サービスを試してきて、ドイツ映画を...
ドイツに居ながらU-NEXTを利用する方法。超簡単【VPN】
久方ぶりの更新です。最近は仕事以外はお家に引きこもってもっぱらU-NEXT(ユーネクスト)で映画鑑賞に没頭する日々です。おかげで絶賛増量中。 先々月にはNetflixに登録したんですけど、ド...

コメント

タイトルとURLをコピーしました